ソトコトの指出編集長が「関係人口」についてじっくり語ってくれた(3)

地方を元気にしたい若者のバイブル、雑誌「ソトコト」の編集長、指出一正編集長が1月31日、忙しい時間を縫って秋田産業サポータークラブのメンバーのために「関係人口」についてお話ししてくださいました。ちょっと時間がたってしまいましたが、さまざまなエピソードがどれも面白く、カットすることができず、ほぼそのまま書き起こしてしまいました!(笑) ただでも長いといわれるWE LOVE AKITAの投稿の中でも最長不倒間違いないので3分割でお送りすることにしました。これはその3です。

指出さんは、若者たちと一緒に全国各地に行き、若者が持つエネルギーが、彼らと触れ合った地元の大人に伝わって、地域を活性化するエネルギーに転じるのを感じています。

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スナックミルキー

これは奈良県の天川(てんかわ)村の話です。これは何がすごいかというと、全国レベルのローカルプロジェクトに育っていった。スナックミルキー。天川村から依頼を受けて、名古屋の男の子、女の子に天川村の関係人口になってもらうプログラムを監修しました。その中から生まれたプロジェクトです。村には洞川(ドロガワ)温泉があります。秋田県も大変だといわれていますが、天川村のある奈良県の南部東部も人口急減が課題の地域です。その中で、洞川温泉は頑張って、アイデアでお客様が絶えない場所を作っています。名古屋のおしゃれな若い人や大学生たち10名くらいが受講してくれました。「なんか面白そう、『関係人口』にも興味あるし」と言って集まった。行政の皆さんには僕からこうお願いしました。「ハレとケのケだけ見せてください」、今これが盛り上がっている、このあいだテレビで紹介されましたといったようなことは一切いりません。玄関ではなく勝手口から招いてくださるような、そういうところをいろいろ見せてくださいとお願いしました。これを「関わりしろ」といいます。関わりしろというのは、「うちはほんとに困っているんだけど、なんか面白くできそうなんだよね」と若い人に伝えられ、若い人に何かやってみたい、役に立てそうと思わせられるもの。これはまさに関わりしろです。

これが関わりしろの例です。廃校です。小学校の廃校の体育館に案内されました。それから間伐材です。森が大変なんです。でもこれをカットしているのは何でしょうか。温泉で有名な洞川地区ですが、エネルギー代がばかになりません。そのエネルギーのコストは外に流れていく。それじゃあもったいない。それで、バイオマスのボイラーを導入したのです。その場所を見せてくれました。若者たちは大喜びです。こんな場所見たことない。若い人にとって、これは自分の名前をフルネームで覚えてくれるぐらい大人への信頼感を増すんですよね。自信がない世代ですから、自分たちが大人として扱ってもらっているのかな、自分を自分としてみてもらっているのかなと思っていることを講座をやっていて感じています。「○○さんがちょっと難しそうだから君やってみてくれないかな」みたいなとき、君ではなくてフルネームで呼んでくれることにすごく安心感を感じるんですね。しかもそれを迎え入れてくれる大人も、なんだか弱さ満載。強みの押しつけなどありません。弱い中からこの村をどうしていきたいか、もちろん楽しみながら考えている、そういう空間が居心地がいいんですよね。

関わりしろ

関わりしろは、つるつるピカピカしている場所ではなくザラっとした場所なんです。ザラっとした町といってもいい。そしてこの講座、必ず両A面の立て付けにしています。若い人たちは天川村の今の様子や天川村の大人のことを鋭く気取り(けどり)ました。

僕は、若い人に2泊3日でせっかく天川村に行くんだったら、その3日間でプロジェクトアウトできることをそれぞれやってくださいとお願いしている。そこで女の子たちが、「わたしたちスナックをやりたいです」と言ってくれたんですね。スナックです。え、だってみんな大学生や大学院生。スナック行ったことあるの?と聞いたら、いや、行ったことないです。スナックってどういうところ?と聞いたら、ダサくってイケてなくって、なんとなくショボイ感じで、何となくかっこ悪いといって全然ほめてないんです。でも、「「じゃあやってね、名前もつけてね」と言ったら、「スナックミルキー」という名前をつけてくれた。なぜか、天川村だから、天の川なので。

スナックミルキーは、午後7時に廃業した旅館を利用したシェアキッチンで開かれました。どうみてもこれはスナックではありません。

どちらかというと小料理屋です(笑)。左の手前がママ、奥がチイママです。ママはスナックのママができるという喜びに、実のおばあちゃんのところに割烹着を借りに行って来た。この時点ですでに小料理屋っぽい。開店するやいなや、やってきた男性陣。どの地域でも必ず、この属性の男性陣がやってきます。地域の責任者。区長さんとダンナ衆。名古屋の若い女の子たちが何かやるらしい。じゃあ、行ってみようと興味津々でやってきてくれました。

でも着座するやいなや相好を崩しました。そうです、だって京都や大阪に送り出しているかもしれない自分のお嬢さんみたいな女の子たちです。その子たちが慣れない手付きで燗を付けてくれる。その上、おしゃれや建築が大好きな若者だったりするから、このときは持ってくるものが全部、名古屋縛り。名古屋のおしゃれな日本酒。おつまみに至っては名古屋大好きな彼女たちですから、持ってきたのがしるこサンドです。甘いんです。「アマ~~」とか言いながら、ダンナ衆がうれしそうに食べる。

このスナックミルキー、夜も更けるにつれ大変なことになりました。やってきたのは温泉街の仕事の終わった若女将や若旦那、従業員のみなさん。「スナックミルキーめちゃいいですやん」。もうスナックが1軒もない場所です。夜はまっくら。それに内湯なので外を歩くような人と会う接点がないなかにスナックミルキー。楽しい夜になりました。

スナックミルキーがにぎやかなので、外を散歩していた宿泊客のカップルが入ってきて、「実は、きょう洞川温泉に来たのは彼女の誕生日で誕生プレゼントなんです」というんです。その話を聞いたママとチイママはすでに仲良しになっている区長とひそひそ話をしてサプライズプレゼントをしなければあかんなといって、プレゼントを渡しました。何だったと思いますか?バースデーケーキ。ただのケーキじゃありません。豆腐です。近くにコンビニはありませんし、ケーキ屋さんもありません。並びの豆腐屋さんに無理をいって豆腐を分けてもらって、ロウソクを3本立ててみんなでバースデーソングをうたった瞬間がこれです。

このあと、この彼女からすごく素敵な言葉をいただきたいました。洞川温泉にやってきてこんなに面白いみなさんがいらっしゃることを知り、出会うことができてよかったです。2時間、3時間と夜が更けるまで交流を深めていきました。観光で来た彼女たちも天川村のみなさんと交流しました。もしかすると関係人口の階段を一段、登ったかもしれません。

もしこの日、この場所にスナックミルキーがなかったら。スナックミルキーを訪れたはずの宿泊客のみなさんは翌朝、場合によってはこんな話をしたかもしれません。これはもちろん、あくまで僕の勝手な寓話です。「いやあ、洞川温泉本当によかったなあ。また温泉行こう」「うん、次どこに行こうか」、「そうだなあ、次は有馬温泉か城崎温泉かな」。スタンプラリーです。地域に接点率を上げていくという関係人口と、一回でも来てくれてスタンプラリーの観光人口とどちらも大事かもしれません。今、僕が関係人口に注目しているのは、ここで出会った人たちがどっちかが幸せで、どっちかが与える側ではないということです。どっちも楽しいんですよね。

関係人口コミュニティーを全国に

こういう人間のコミュニティーをもっと日本の各地に作ったほうがいいではないかと考えて僕は動いています。実はウェルビーイングの調査で、健康長寿でダントツ大事なのは、人と人の触れ合い、コミュニケーション、その後にお酒を飲まない、タバコを飲まない、健康診断受ける、空気のいいところに住む。ダントツが人との対話、交流なんです。なので、これは実は僕たちの幸せを助長する動きにもなったかもしれない。この場所を作ったのは、地域づくりの専門家でも、僕でもありません。何か面白いことがありそうと思ってここに来た名古屋の女の子たちです。観光でもない、移住でもない名古屋の女の子たち、スナックをやってみたい、自分ごととして面白いことをやってみたいといって、町の人たちが面白くなることをやった、これも立派な関係人口です。意地の悪い人がよく僕にこういうんです。

「でも指出さん、これ単発じゃん。これで終わりでしょ?」と言われます。これに対して2つの答えがあります。「単発でも何もないよりましでしょ?」、「データを調べているばかりでは、なにも進みませんよ」っていいます。そしてこちらの方が重要なのですが、もうひとつは、彼女たちがこれで自信を付けられたんですよという答えです。「みんなが喜んでくれる場所を作れたんだ、私たち。そして区長さんが大絶賛してた。スナックミルキーよかったなあって」。

翌朝、区長さんたちが、「あのなあ、お願いがあるんや。もしよかったらまた天川でスナックミルキーやってくれへんかな」って言いました。「おやすいご用です」っていってスナックミルキーがまた開かれたんです。そして今度は名古屋のものを持って来ません。天川村の野菜をや産物を使ったスナックを開いているんです。それだけではないんです、今、スナックミルキーは出張スナックになって、京都や、日本橋や、名古屋、岡崎で年間複数回開かれているんですね。ママ、チイママが中心ですが、メンバーが変わるんです。みんな1回ぐらいママやってみたいんです。そこに20~30代の女の子を中心に30~40人が訪れるんです。これが大事なんです。僕がバトンを渡しきれない人たちに彼女たちが届けてくれるからです。

僕は、地域づくりや公共政策や建築が好きな若い女の子が来てくれる講座は開けるかもしれません。でもその先にいるもっともっと地域で普通に暮らしている若い人たちに届けるには同年代のエバンジェリストが必要なんです。

スナックミルキーの女の子たちは、いつも始めるときにこのようなことを言ってくれます。「このスナックミルキーは奈良県の天川村で始まりました。天川村にはゴロゴロ水というおいしい水があって、芸能の神様がまつられていて、とてもすてきな温泉街があり、めっちゃ面白いみなさんがいる場所です」。これだけで想像が働きますよね。口コミほどパワフルなものはありませんよね。SNSよりはるかに若者の情報です。天川村にちょっと行ってみたくなりましたと実際に足を運ぶ人も現れました。この関係人口が関係人口にリーチしてくれる。そのバトンの受け渡しができることが実は講座を開催するうえでの大事なところです。

◆取材・記事:竹内カンナ

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