秋田の食材でイタリアン! アガッテタンシェの柳瀬一輝さん

東京・港区の溜池山王「a gatte tanshie (アガッテタンシェ)」。秋田市出身の柳瀬一輝(かずき)さんが1年半まえにオープンしたイタリアンのお店です。アルファベットで書いてあると気が付かない人も多いのですが、店名は「お召し上がりください!」の秋田弁。

料理を通じて秋田のおいしいものを紹介することに情熱を燃やす柳瀬さんが、お店のイチオシ・メニューに選んだのは、東成瀬村の「羽後の國ファーム」の短角牛。秋田の山奥の広い牧場で牧草を食べ、健康的に育った牛です。

9月のある日、アガッテタンシェに軽い夕食を食べに行ってきました。お店は溜池山王駅の11番出口を出て30秒という好立地のビルの地下です。

店内の黒板には短角牛のいろんな部位のお肉が書き出してあります。「一番おいしいのはどれですか?」とお聞きすると、「やはりフィレですかね」というお答えだったので、フィレを150グラムと、ハーフサイズのサラダを注文しました。

ステーキの専門店のように焼き加減を聞かれることはなく、たぶん一番おいしい焼き加減で切り分けられて出てきたフィレ肉。

フィレは、なかなかお高いので、はんぱですが150グラムでお願いしました。お皿のスペースが広い~~~(笑)

赤身が魅力の短角牛は、柔らかく、噛むと口の中にジュワーっと肉の旨味が広がります。和牛の有名ブランドの肉は、そのジューシーさが脂だったりするのですが、短角牛はそうではない、赤身肉の味わいです。

添えられているのは「男鹿工房」の「わさび塩」。普通の塩のように見えますが、男鹿の塩にわさびの粉末を加えています。黒胡椒には、時々生の粒胡椒を添えます。その隣はプチプチした粒の感触が楽しい自家製マスタード、そしてさわやかな香りの柚子胡椒、どの薬味も短角牛の風味をさらに引き立ててくれました。

この時は、フィレ以外にも「リブロース」、「サーロイン」、「シンタマ」があり、シェフのおすすめ2種というオーダーもできます。私も150グラムでお願いしましたが、50グラム単位で注文に応じてくださいます。

ステーキ以外にも、カルパッチョ、タルタル、マッシュポテトとひき肉のオーブン焼き、ロースの薄切りと生雲丹(うに)、ラザニア、サーロインのタリアータ、赤ワイン煮、フィレ肉のレアカツなどなど短角牛を使ったメニューがあります。

有機野菜のサラダは赤い大根などさまざまな味わいの新鮮な野菜を使っています。このサラダは東京で手に入る野菜中心ですが、秋田素材にこだわる柳瀬さんは、秋田市民市場のあいば商店にお願いして折々のおすすめなどが書かれたリストを送ってもらっているそうです。あいば商店は、入荷量の少ないものも扱っており、リストを見てすぐ注文してもなくなってしまうこともあるそうですが、柳瀬さんは埋もれている食材に出会いたいと思い、調理方法が分からないような山菜や野菜や伝統野菜なども買って、いろいろと試してみているそうです。

有機野菜のサラダ ハーフサイズ

私が行った日は、こんなメニューが掲載されていました。「天然みずの実のフリット」。みずをご存じですか?秋田では普通にあるのでよくられていますが、最初カリっとするのに少し噛むとトロっとしてくる食感が面白い。軽くゆがいて一夜漬けやおひたしにするのが定番。ですから、アガッテタンシェのアンチョビソテーは、とてもオリジナルなメニューです。

フリットというイタリアンやフレンチでよく使われる調理方法は、山菜にも向いています。山菜は下処理に手間も時間もかかりますし、どう処理していいかが分からなかったりします。また、下処理に時間をかけすぎると山菜らしい味わいがなくなってしまうので、神経を使います。でも洋風天ぷらともいうべきフリットにすると苦みがちょうどよく抑えられ、おいしくできるのです。

ドリンクにも秋田へのこだわりがあります。日本酒は、なかなか手に入らないことで有名な新政に絞り込み、新政だけのメニューがあるほど。

新政は、昭和の初めに醸造学の最高峰だった現在の大阪大学工学部で学んだ五代目佐藤卯兵衛(現社長の曽祖父)の時代に、大学の後輩の手によって新政のもろみから採取された酵母「きょうかい6号」にこだわった酒造りをしています。この酵母は、それ以降のすべての清酒酵母の親なのだそうです。五代目の時代の昭和 15~16年に、新政は全国新酒鑑評会で2年連続で「全国首席」を獲得し、全国に名を知られています。

今の佐藤祐輔社長の時代になり、2014~15年(平成26酒造年度)からは、酒母に「培養乳酸菌」を使うのをやめ、天然由来の乳酸菌によって造る「生酛(きもと)系酒母」のみに製法を限定しました。酒米も秋田県で栽培されたものにこだわるだけでなく、自社で無農薬の米作りまで始めています。

アガッテタンシェでは、新政の「Colors」、「NO. 6」、「Private Lab」の各ジャンルのお酒をほとんど置いているそうです。「天蛙」というスパークリング清酒などはマイナス5度近くで管理する必要があるので、なかなか置ける店がないのですが、アガッテタンシェは、その基準を満たす氷温庫を備えています。

それもそのはず、柳瀬さんは新政の祐輔社長の弟さんと幼なじみで、昔はよく一緒に遊んでいたそうです。柳瀬さんは、ボトルのデザインや酒造りのディテールにまで徹底的にこだわる佐藤祐輔社長をリスペクトしていて、イタリアンのお店でも新政だけは置きたいと思い、アガッテタンシェの開店の際には新政を置かせてもらえるよう祐輔社長にお願いに行ったそうです。

柳瀬さんは、「秋田の日本酒はどれも素晴らしいが、新政はそのどれとも違う特別な酒」と思っているそうです。このお酒をたくさんの人に飲んでもらいたいと、アガッテタンシェでは都内では珍しいグラス売りで、それもけっこうお得な価格で提供しているそうです。

そしてビールは、といえば田沢湖ビール!株式会社劇団わらび座が製造しているビールで、本場ドイツまで作り方を学びに行き、3年掛けて準備して製造を始めた秋田県の地ビール第1号です。角館の郊外で製造されている田沢湖ビール、世界中のビールコンクールでさまざまな賞を取りまくっています。最近でも2018年には「ピルスナー」がワールド・ビア・アワードで世界一に、「アルト」がヨーロピアン・ビアスターで世界一に輝いています。アガッテタンシェでは6種類の田沢湖ビールをいつも置いています。いちおうプレミアムモルツも置いています。

それ以外にもアガッテタンシェのメニューには、前菜にはいぶりがっこ入り自家製ソーセージ、羽後の國ファームの「笑子豚(エコブー)」の田舎風パテ、秋田のキノコとエビのオイル煮、サラダではせりのパルミジャーノのサラダ、パスタではとんぶりとカラスミのペペロンチーノ、比内地鶏卵のカルボナーラなどがあります。

カウンターの向こう側には小さなナマハゲのお面が・・

比内地鶏の卵は障がい者とともに比内地鶏を飼育している花輪ふくし会のわくわくファクトリーから仕入れています。放し飼いの地鶏があちらこちらに産み落としたのを拾い集めた卵です。小さいのですが濃厚。プリンなんかにしてもおいしいそうですねぇ。

柳瀬さんは、今も秋田の食関連のイベントがあるとできるだけ参加して、生産者や業者の方たちと交流したり情報交換するように努めているそうです。

なんとなく料理人っぽくない人だなと思っていたのですが、実はデザイン学校の出身。社会人の振り出しは服飾関係のお仕事をされていたそうです。フェイスブックの写真が、寝起きですか?みたいな髪ぼさぼさ、無精ひげのような顔なので、まったく外見には興味のない人かと思っていたら!

柳瀬さんは学生時代から料理好きで、お友達に振舞って驚かれたり喜ばれるのが嬉しくて、いつの間にかプロになっていたというのですから、ある意味、天職です。

お店で知り合った人同志がお付き合いを始め、結婚して、みんなでお祝いをしたりといった、いろんな人の人生にとって大切な時間を共有できることがレストランをやる楽しさ、とおっしゃっていました。

秋田の食材にこだわろうと思ったのは、親たちが手塩にかけ、大切に育てた野菜が業者に安く買い叩かれる悔しい思いを友達から聞いてから。その友達がネットで直接、消費者に販売する事業を始めたと聞いて、自分も何か秋田にお返しがしたいなと考え、それなら料理を通して「秋田にこんなにおいしいものがあるんだ!」と気づいてもらえたらと思い、自分の店を持というという気持ちを強くしました。

柳瀬さんは、アガッテタンシェを、東京で秋田ゆかりのお店として皆に名前を挙げてもらえるような、そして秋田の人が上京したら行ってみたいと思うお店にしたいと語っておられました。

これからも秋田食材を研究して、秋田の人をうならせる料理を追求していってください!

🔶アガッテタンシェのホームページ

▪ 溜池山王の11番出口のエスカレーターを登り、右に見えるドトールに沿って右後方に歩くと10秒です。

文・写真:竹内 カンナ

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